薪ストーブという暖房器具

​ 「夏を旨とすべし」と言われるように、日本では昔から風通しを良くし、夏の涼しさを優先させた家のつくりにしてきました。冬に部屋を暖めるという考えはなく、局所的に火を使いその側で暖まるしかないという冬に厳しい暮らしをつづけてきました。しかし、現在では住宅の断熱や気密性能が格段に良くなり、どのような暖房器具を使うにしても、少ないエネルギーで部屋を暖めることが出来るようになっています。昔から行われてきた火による暖房器具としての薪ストーブを、現代の住宅の主暖房と考えた時の特徴と、それを活かすためにはどのような家のつくりにすれば良いのでしょうか。

 

熱の伝わり方

 

 暖房器具は、「放射」「対流」「伝導」によって室内を暖めます。「放射」とは、熱源から放たれる熱のうち、個体間の空気等の気体の存在の有無に関わらず、赤外線という形で熱が伝わること。太陽光の熱の伝わり方と同じで、器具本体や、暖められた壁面、家具などからの熱により自然な暖かさを感じることができます。「対流」とは、空気が暖められて、軽くなり上昇し、そこに冷たい空気が流れ込み、暖められて上昇するという繰り返しの現象。対流する空気の上下の動きによって、部屋が暖められます。エアコンやファンヒータなどがそうですが、空気の動きが大きいと不快感を感じることがあります。「伝導」は同じ物体(個体)または異なる物体同士が接触することにより、熱が物質中を移動することです。床暖房で直に触れた足が暖められるのがこれにあたります。

 

薪ストーブ暖房の特徴

 

 薪ストーブは、主に放射熱により室内を暖めるのが大きな特徴です。燃焼している薪ストーブ内部の温度は300℃~1000℃、表面温度は300℃前後になり、熱くなった薪ストーブからは熱線が出て、壁、床、天井などに当たり、前後・左右・上下から万遍なく熱が伝わります。人の体にも直接熱は伝わり、包みこむような遠赤外線作用で体の芯まで暖められます。一方、薪ストーブ周囲の空気が暖まって上昇し、そこに冷たい空気が流れ込んで対流も生じます。そのため空気の流れを上手に利用すれば、放射熱による作用と共に薪ストーブ一台で家全体を暖めることも可能になります。

 

薪ストーブと相性の良い仕上げ材

 

 薪ストーブの放射熱により壁や床に伝わった熱は、蓄熱もします。そこに蓄えられた熱は、室温が下がり始めた時に放出されます。蓄熱することで、薪ストーブによる急激な室温の上昇をやわらげ、ストーブ本体が冷えても室温の低下を少なくすることができるのです。そのため、熱容量(熱を蓄える力)の大きな素材で室内を造れば、より効果的です。人体が心地よく感じる室内環境は、空気温度が18℃~20℃と少し低めで、周壁から24℃~25℃の放射熱により暖かさを感じる室内というデータもあります。(「環境建築」読本)

 壁の仕上げに漆喰や珪藻土などの左官仕上げ材を使うことで、素材からの放射熱により室内は暖かさに包まれます。これらの素材は、室内の湿度が高い時には吸湿し、湿度が低い時には放湿して、室内の湿度を一定にする働きもあります。夏の湿気を調節し、冬の暖かさを得る。日本に受け継がれて来た建築素材は、薪ストーブとの相性がよいのです。

 また、コンクリートや石は熱容量の大きな素材です。それらを床や壁に使えば熱を蓄えることが出来ます。薪ストーブを置く炉台は高温の放射熱を受けるので、これらの他、レンガや瓦、タイルなどで造ると素材に蓄えられた熱が放射され室内が暖められます。

 

薪ストーブと間取り

 

 現在市販されている薪ストーブの能力は、きちんと断熱された家であれば30坪ほどの家を十分暖めることができます。薪ストーブを設置しようとしている人のほとんどが、それ一台で家中を暖めようと考えるでしょう。日本の昔の家は、引き戸を開ければ部屋同士が繋がり、風通しが良いように造られていました。夏の風通しを旨として冬には厳しい家でしたが、現代の住宅のように優れた断熱性能があれば、ひとつながりの空間にすることで風通しと暖かさの両方を享受することができます。さらに吹き抜けがあれば、暖められた空気が対流することによって、1階に置いた薪ストーブ一台で2階も暖かくなります。このような空間は、プライバシーが確保しにくいという反面、家族の気配がどこにいても感じられる家族の絆を生む家ともなります。

 

薪ストーブと室内空気

 

 もうひとつ薪ストーブの特筆すべき点は、換気しながら暖房してくれるということです。薪が燃えることで煙突から燃焼した空気が常に排出されて行きます。供給される空気は、給気アダプターをつけた薪ストーブ以外であれば、おのずと給気孔や隙間から外気が室内に取り入れられ、汚れた空気を煙突から排出して常に新鮮な外気を室内に取り込むことになります。

 エアコンやファンヒータは室内空気の対流によるものです。機器によって暖められた空気をファンで送風し、室内の空気を循環させて暖めます。FF式ファンヒータは、室外から給気し、室外へ排気をしますが、基本的には室内で空気が動き、部屋を暖めます。換気するという機能は他の暖房器具にはない特徴です。

 

薪ストーブの燃料

 

 薪ストーブは薪を燃やすことで暖まり、二酸化炭素を排出します。けれども、薪として利用する為に木を切った後には、再び木が成長する過程で同量の二酸化炭素を吸収し固定化してくれます。石油や天然ガスなど化石燃料との違いがここにあります。燃やさず山で腐らせたらどうなのか。微生物の作用で木が腐敗しても同じように二酸化炭素を排出することになります。薪を燃料として使えば、その分化石燃料を使わないことになりますから、森で腐らせるよりは環境に良いと言えます。

 薪をエネルギー資源として利用していくことは、里山の復活も期待されます。里山は、人が利用し、手入れをすることで、循環し維持される自然です。環境破壊が危惧される今、身近な自然を利用してきた先人の暮らしに目を向けることは、日本の山の事情を考えても、有効なことです。

木々設計室 一級建築士事務所/松原正明・樋口あや