薪ストーブの設置と費用

手間がかかるからこそ楽しい薪ストーブ

 薪ストーブはメディアでもずいぶんと取り上げられるようになりました。とはいえ、街を歩いていてもめったに煙突を見かけることはありませんから、まだまだ一般的ではないのでしょう。興味はあっても、実際に自分の家に薪ストーブを設置するとなると、危なくないのだろうか、薪はどうするのだろうか、煙突掃除はどうするだろうかと、あれこれ考えては面倒になり、現実的ではないとあきらめてしまうことが多いのだと思います。では、薪ストーブを日々の暖房に使うことはそんなに大変なことなのでしょうか? 結論から言えば、やる気さえあれば、そう難しいことではありません。

 私が住宅の設計を始めてから30年を超え、これまでに120件以上の家を手掛けてきました。振り返ってみると、ここ10年ほどで、薪ストーブを設置した住宅が少しずつですが増えてきています。私が福島県にある週末住居でアメリカ製の薪ストーブを20年、板橋区の自宅でデンマーク製の薪ストーブを10年使っていることもあって、興味本位でその使い勝手などを訊かれることがあります。その大変さも知っているだけに、安易にすすめることはしないのですが、薪ストーブを使うためのさまざまな苦労とともに、その特別な暖かさと炎のある暮らしをお話しすると、多くの方が竣工後に薪ストーブのある暮らしを始めるようになります。

 携帯電話、インターネット、コンビニ。これといった準備をしなくても、望むものを簡単に手に入れることができます。家の中の住宅設備もスイッチひとつで快適な生活をおくることができます。自分とは関わりのないところで準備され、目の前にすぐ結果が現れます。薪ストーブを使うということは、これとかけ離れたことをすることになります。一年以上も前から薪の心配をして、集め、割り、積んで、乾燥させる。この過程があってやっと冬の暖かさを得ることができます。そこには自分が一年を通じて積極的に関わる“暮らし”があります。だからこそ手間をかけることが楽しく、そこに薪ストーブの魅力があるのだろうと思います。

 

新築時に薪ストーブを設置するには

 

 さて、薪ストーブは暖房器具ですので、その能力を活かすためには当然ながら、家のつくり、間取り、断熱性などが大きく関係してきます。煙突の設置場所によっては近隣への配慮や自分の家の屋根による風圧帯の影響、メンテナンスの容易さも関係します。また、最近の住宅では、気密性や義務づけられた24時間計画換気などが薪ストーブに与える影響も少なくないため、新築の住宅に導入する場合は、薪ストーブに対する十分な知識と計画が必要です。それでは、新築する家に薪ストーブを入れようと決めたら、どこへ頼めばよいのでしょうか? 依頼先は薪ストーブ販売店、工務店、建築設計事務所のいずれかになります。

  • 薪ストーブ販売店

 販売店は薪ストーブの輸入元から薪ストーブを仕入れ、販売と設置を行います。いくつもの支店をもち、年間の設置台数が多い規模の大きな販売店から、一人から数人でまかなっている小さな店もあり様々です。大きな販売店ですと薪ストーブをたくさん展示してあり、実物を見て比較検討することができます。小さな販売店でも特に問題となることはありません。個人的なつながりができ、設置後の使い方やメンテナンスなどを気軽に問い合わせができるなどの利点があります。薪ストーブ販売店は、薪ストーブの知識が豊富で機種選定や薪ストーブの設置場所や煙突の経路などに適切なアドバイスをもらうことができるもっとも頼りになる依頼先です。反面、新築する家の構造や断熱性などの知識に乏しいこともあるため、薪ストーブの設置場所と間取りとの関係など総合的な判断に弱い面も考えられます。いずれにしても、薪ストーブは設置時だけではなく、薪ストーブの使い方や必要な道具、煙突の掃除など、設置後の方が重要ですから信頼のおける販売店にめぐりあうことが薪ストーブライフを楽しむには必須となります。

  • 工務店

 新築で薪ストーブの設置を考えた場合は、工務店に依頼することが多いのではないでしょうか。設計と施工の両方をやっている工務店であれば、設計の最初の段階である間取りを決める時から薪ストーブの設置を前提で考えていくことができます。ただし、薪ストーブを設置した住宅の経験が少ない工務店では、薪ストーブを導入することによって、建築的にどう影響があるのか、どのような作りにした方が良いのかを十分考慮できず、薪ストーブ代理店任せにして薪ストーブの本来の性能を発揮できなかったり、安全性の配慮に欠けたりするということもあるようです。工務店への依頼であれば、薪ストーブ設置の実績が豊富な工務店に依頼すべきでしょう。また、事前に薪ストーブ販売店を決めたうえで、工務店に指定して工事を行ってもらうこともできます。工務店を通さずに販売店と直接契約をすることも可能ですが、建築工事との絡みがあるためユーザー自らが両者と十分な打ち合わせをする必要があります。

  • 設計事務所

 新築の場合、設計→工事→薪ストーブ設置の順番で進んでいきます。先に書いたように薪ストーブは住宅のつくりとさまざまな面で関係があるため、設計の初期段階から薪ストーブを設置することを前提に間取りや家のつくりを考えていくべきです。また、薪ストーブの設置には建築基準法、消防法が関係するため、専門家である建築設計事務所に依頼するのが安心です。薪ストーブ設置の経験が豊富な設計事務所であれば、家のつくりから考えた適切な薪ストーブの大きさや、近隣への影響を考えた薪ストーブ、煙突の設置場所、換気設備による薪ストーブへの影響、薪ストーブの暖気計画などさまざまな角度から検討をしてくれるでしょう。ただし、薪ストーブ設置の経験が少ない設計事務所では、法規上の規定を満たすための図面だけを書いて、後は薪ストーブ設置業者や工務店に任せっきりというところもありますので注意が必要です。工務店の場合と同じく、ユーザーが直接薪ストーブ販売店と直接契約して工事を行ってもらうこともできます。

 いずれにしても、薪ストーブを設置するなら、家づくりの早い段階から考慮に入れて、薪ストーブがある家ならではの間取りや空間づくりの計画をしていきましょう。それには、薪ストーブ設置の経験が豊富で、できれば自らが薪ストーブユーザーである業者に依頼して、薪ストーブを使う楽しさ、大変さなどを話し合いながら打ち合わせを進めていければ、その後の薪ストーブライフの糧となるに違いありません。

 

リフォームで薪ストーブを設置するには

 リフォーム工事の機会に暖房器具として薪ストーブを設置したいと考える方もいるでしょう。その場合、設置場所と煙突の貫通部の防火については慎重な検討が必要です。薪ストーブの周囲の構造は防火基準や、薪ストーブごとに設定されている可燃物からの離隔距離を確認し、それに沿った設置工事を行います。また、薪ストーブの重量は80kgから200kgを超えるものまであり、ほとんどは細い4本の足で支えられていますから、炉台の強度にも注意を払わなければなりません。一階であれば、床を剥がして、補強を行う必要が出てくるでしょう。さらに古い木造住宅の二階に設置する場合は床を受ける根太、梁の位置を確認して相応の補強工事が必要になります。リフォームの場合、雨漏りの心配から煙突を屋根に抜くのが難しいのなら、壁出しも考えます。あわせて煙突を貫通させる壁が構造上必要な壁かどうかの検討も必要です。いずれにしても薪ストーブ本体、煙突設置に適切な工事を行わないと火災発生の恐れがありますので十分な注意が必要です。また、薪ストーブの設置工事だけでなくリフォーム範囲が一定の規模を超えた場合は、建築確認申請が必要となりますので、その点も注意してください。単に薪ストーブの設置だけであっても、屋根や壁との工事上の絡みがありますから、工務店か設計事務所への相談が必要になります。

 

薪ストーブにかかる費用は

 薪ストーブを設置するには、どれくらいの費用をみておいたらよいのでしょうか。カタログに書いてある値段は、薪ストーブの本体価格として20万円くらいから100万円近いものまでさまざまです。しかし、薪ストーブの設置費用には、本体とは別にそれに付随する煙突の値段と、工事費の金額が加わります。20万円の薪ストーブを設置して費用が100万円になったりするのはこのためです。薪ストーブ設置の見積もり例を挙げましたが、薪ストーブ本体の値段よりも煙突費、設置費の占める割合が大きいことがわかります。煙突の種類、長さ、屋根や壁抜きの状態などによって金額は変わってきますが、薪ストーブの値段に60~80万円の金額を足したものが薪ストーブ設置費用の目安と考えてもよいでしょう。高いように思うかもしれませんが、薪ストーブが気持ち良く燃えるためには、薪と煙突が重要と言われていますので、これらの費用を惜しんではいけません。また、これとは別に建築工事費として、屋根抜き部煙突回りの大工と板金加工手間、薪ストーブが置かれる炉台工事、後側面の防火措置などが別途費用としてかかることになります。なんと、軽自動車一台分くらいの費用になります。しかし、電気やガスの床暖房等の設置費用と比べれば、それほど高価ではないことに気がつくでしょう。趣味で薪ストーブを焚くには少々高価ですが、家全体を暖める暖房器具として考えれば、そう高いものではないと思います。そのうえ、薪を自力で手に入れられる方なら燃料代はタダです。だだし、自分の薪集めと薪割りにかかる手間と時間は別物ですが。

木々設計室 一級建築士事務所/松原正明・樋口あや